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シタリニクエ・徒然

シタリニクエの中の人の日々の徒然
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灯火 2 -1-

今日は暑いです。
午前がじめじめと暑く、午後は雨との予報。雨が降ると一気に涼しくなりますし、気温差がなんとも…。皆さんもお体にお気をつけ下さい。

拍手、おかえりのお言葉本当に有難うございます。
まだ安定とはいえませんが、少しずつ頑張ってまいりたいです。感謝…!
サイトの誤字指摘も有難うございます。こっそりと修正しました。

▼『AccessAnalyzer』について
小さなバナーと多機能性でこのサイトでも使っていた解析ですが、先日からウイルス騒ぎがあり、現在も修正がされていないため、当サイトでは全てのアクセスタグを削除しました。(現在忍者ツール様の解析を使わせて頂いております。)
個人ブログ様ですが、詳しい経緯等が載せられていますのでリンクを…
>>日々是妄想『AccessAnalyzer.comにトロイ埋め込んだ奴は誰だ! 』

当サイトでは削除したつもりですが、もしも削除忘れのページがございましたら、お知らせいただければ幸いです。また、バナーを見つけてもAccessAnalyzer公式ページには決してアクセスしないようお願いします。
公式ページトップページから、ウイルスが仕込まれており、アクセスしただけで感染する場合がありますので、十分お気をつけ下さい。

▼以下に書き溜められていた『灯火2-1-』。
この話は『風の守る街』の裏話や補完部分になるはずなのですが、脱線してきた気がします。メルファがなかなか出てきません。
出てきても、暗さ全開ネガティブ溢れるメルファですが(´・ω;;...
エリオット(メルファ父)、カナリー(メルファ祖父)。カナリーは旧姓ロプロットで、精霊軍の元緑の騎士です。
マリア(マリー)はカナリーの妻で、人間。





『 灯火 2 -1-』
 


世界を閉じてはいけない。

たとえば、世界の声が、あなたを冷たく傷つけても、
あなたが手を伸ばせる其処には、あなたを守るあたたかい人々が居ることでしょう。
そして聞こえないその先の世界には、どこまでだって、貴方は自由に行くことが出来るのだ。




* * * 



沢山の小さな光たちが、風に遊ぶ窓辺。
『それら』は蜻蛉の様な薄い羽をゆっくりとはためかせる蝶の様な姿に見えた。
街の人々には認識できない彼ら―小精霊は、このタータルナの豊かな土地に育まれて、大地も、空も、室内も関係なくふわふわと飛び回り、時に悪意のない悪戯をする。
先ほども、勉学書を捲るエリオットを誘惑するように手元で遊ぶものだから気が削がれてしまい、彼は苦笑を浮かべて分厚い本を閉じたのだ。部屋にいくつかある広い窓のうち一つを大きく開けると、待ちわびた様に(といっても、何の魔力も帯びていないただの硝子窓など、実際は精霊にとってなんの障害にもならない。)光たちがいくつも部屋の中に舞い込んだ。
造りはこじんまりとはしているが、人一人くらいならば余裕で身を乗り出せるベランダは、昼を少し過ぎた柔らかな初夏の光を受けていて、白い大理石が人肌ほどのぬくもりを帯びている。

それに身体を預けるようにして、じゃれ付くような小精霊たちを何とはなしに指先でつついていると、

「―エリオット」

静かな、あまり感情の波風を感じない柔らかい声音が掛けられた。振り返ると、窓の外の明るさに慣れた目には少し薄暗い室内で、ゆっくりとこちらへ寄る大きな影。
小さい子供であった自分には、当時どの大人もとても大きく見えた。その大きな大人たちを比べれば、どちらかといえばその影は小さな方であったけれど、それでも子供の私を容易く覆う影だった。
その影はゆっくりとベランダの前、光が豪奢な絨毯を染めあげる、ほんの一歩手前で足をとめる。
「困った子達だね。この谷の精霊は元気が良すぎる」
困ったと言いながらも、薄暗がりの青年(そう、その人物は、どうみても外見はまだ二十歳半ばを過ぎた青年にしか見えない。)の表情は柔らかい。ただし、常日頃から彼の表情は主にその薄い笑みのみで、私は他の表情をあまり見た事はなった。

「…何か御用ですか? 父上」

「マリーに聞いたよ。午前中熱があったそうじゃないか。眠らなくて平気か?」

影は私の父親だった。清潔な生成りのブラウスにシンプルなスラックス、ただし季節に少しだけ合わないストールを肩に掛けた、優しい面立ちの人。
床から返る淡い日の光でうっすらと光を帯びる白い面は、余程彼のほうが『体調を心配する』対象のようだった。
「下がりました。もう平気です。」
それでも信用できないというように苦笑した父は、低い私の身長にあわせる様にその場に屈み、こっちにおいでと言うように両手を広げる。父は、あまり日の光を浴びようとはしなかった。
大人しく寄れば、ひんやりとした掌が額に押し当てられる。夏の初めの今日は少しだけ陽が強い。気付かないうちに温まっていた身体に、温度の低い父の手は少し気持ちが良かった。
自分の額にも掌を当てて思案するような表情だった彼は、やがて小さく頷いた。
「本当に大丈夫なようだね。エリオットは丈夫だな。」
嬉しそうに笑って私を解放して、父はけれど立ち上がらずに、そのまま柔らかく私の頭を撫でた。

「君が元気で嬉しいよ。でも油断は禁物だから、何か変わりがあったらすぐにマリーか、私、使用人たちに言うんだよ」

父の言う変わりとは、体調の急変のこと。
特別身体が弱いということは無いが、昔から突然に体調を崩すことが多かった。それが起こる度に、母は泣きそうに、父はとても厳しい顔で私の枕元に立つ。
…思えば、この頃から父は既に、自分の背負ったものの一部が私へと受け継がれてしまったことに気がついていたのだろう。
しかし、私は身体の成長に伴い、そういった突然の体調の崩壊といった経験は減っていった。(これは本当に、私が特別に丈夫であったのか、あるいは私の父と息子が少し丈夫では無かったのか、私にはどうしても分からなかった。)ただし確実に受け継がれていると自覚できる症状は、少しずつ進んでいった。

14の頃、左の視界に違和感を感じ始めた私は、25を迎えた辺りで、左眼の視界をほぼ失った。


* * * 


『私は赦さない。君も、世界も、自分も。
私は嘆かない。君の不幸も、世界の偶然も、自分の結末も。

それだけが、『僕』が君へ贈る、信頼と報復の証。

―…さようなら。』



丸く空を刳り貫く月を背負って、青年が朗々と宣じて、そしてゆっくりと堕ちていく。
白い塔から、深海のごとく沈む暗い大地へ。
風を孕んで、その人物が常に自らの『色』として背負ってきた緑が、青白い光になお鮮やかにはためいて、
青年の後を追うように、庭園を埋め尽くす白い花弁がひらひらと羽の様に舞い落ちた。

…二度と見(まみ)えぬ決別を惜しむように。


* * *


ゆらり、ゆらり。
ぱらり、ぱらり。
さらさら、さらさら。

ペンを走らせる微かな物音と、古い紙を捲る音。その頁を繰る動作に合わせて、重い木造の机に置かれたランプが微かに炎を震わせた。
屋敷の中でも外れに作らせた蔵書室、その一角で時を感じない程淡々と同じ動作を繰り返していた青年は、何時間か振りにペンを置いて、凝ってしまった身体を伸ばすように伸びをした。
その拍子に肩からずり落ちたストールを、ゆっくりとした動作で足元から拾い上げる。
机の上に積まれた本は、およそ半分ほどに所々付箋をつけられて、細かい几帳面な文字で埋め尽くされたレポートの羊皮紙は少々乱雑に重なっていた。
薄暗い場所での細かい作業で軽い頭痛を覚えたのか、青年は線の細い秀麗な顔を微かにしかめてこめかみの辺りに指を置く。

「…見つからないものだね」

小さな呟き。彼ひとりしか居ないこの場所では当然ながら答えは返らない。
ため息をつくと、青年は少しきしむ椅子から立ち上がり、蔵書を日差しから守るための厚いカーテンの掛けられた窓辺へと歩いていった。
本の保護に努めた薄暗い蔵書室は、本来何時間も篭るような場所ではない。掃除はこまめに使用人にさせているものの、埃っぽい、紙とインク特有の香りで少しばかり息苦しい。
もともと彼は、いわゆる『閉鎖された空間』というものが得意ではなかった。カーテンを細く開けて、小作りな窓枠に力を込める。軋んだ音をたて、滅多に開かれない所為か少しだけ埃を零しながら窓は開いた。隙間から吹き込む緑の香りをのせた風に、青年は心地良さそうに息をつく。
ふわふわと隙間から飛び込んでくる小さな住人たちに少し笑って、細めた瞳で眼下の庭…といっても、広い敷地の裏のほう、ほとんど林といってもいい木々を見下ろす。夏を迎える手前の柔らかい葉々が、暗がりとランプのオレンジの光になれた目には眩しかった。

「ここにきてもう13年か…」

嘗ての『暴風渓谷』と呼ばれた荒れた谷の面影はもう殆ど残っていない。精霊の力に溢れたこの谷は、巨大な自然の魔力をほんの少し歪ませ整えられて、今は穏やかな風の力に満ちた美しい街となった。
風の魔力に阻まれながら人々が必死に切り拓こうとしていた、余りの強風に草花ひとつ育たない、岩ばかりの灰色の谷が、たった8年で街となり、そして5年で活気で満ちる。
人族の順応力、適応力、そして何よりも逞しさ。青年、カナリーはそれらがとても眩しい。精霊に愛されたと言われながら、その実精霊達に支えられなければ無力である自分たち(精霊族)は持たない、生命の強さ。

(影響されたのだろうね)

どこをどうさ迷い歩きこの谷に辿り着いたのか、カナリーに旅の途中の記憶は薄い。
ただただ、虚無の日々だった。暗い恨みや怒りは時間が少しずつ薄めていった。しかし失ったものは、その感情の波が凪いでからこそ暗い洞の様にじわりと形を顕にする。
失くしたものは還らない。それだけが真実で事実で、だからこそ彼は、かつての場所を切り捨てたのだ。
ヒトとヒトとが会い争えば、当たり前に起こる死・暴虐・喪失。戦争で華やかに語られた『緑の騎士』が、何よりも恐ろしいものが何であるのかを知ったその時に、彼はその場所に立つ事が出来なくなった。

「今なら、あなたが何を恐れたのか、分かる気がします」

遠い友へ向けた呟きが、届かないことは分かっていた。
そこに居て心は在らず、歩く屍。長い時を無為に過ごして、まるで擦り切れる寸前のぼろ布の様な。(これはマリアの言葉だ。恐らく彼女の目には事実死に掛けで疲れきり、生の気力を持たない病人に見えたのだろう。)
かつての貴族を名乗る自分だったら、その様を嫌悪したかもしれない。
それでも野たれ死ななかったのは、生きて居たいと身体の何処かが望んだのだろうか。あるいは、気力を殆ど放棄した事で、かえって『イキモノ』としての本能が死を忌避したのかもしれない。

なんにせよ、この谷に流れ着いて、青年は『救われた』。
己が在る場所はあの洗練された古都ではなく、この命溢れる谷の片隅だと、すでに心も身体も決めているのだから。
それがどんなに幸せなことであるのか、愛する妻でさえも全て推し量れるかは分からない。欠けた心を、満たし慰撫してくれた、温かい存在の、その類まれない貴重さを。

今は、蝕まれ衰えていくこの身体が恨めしく、そして此処に在れる其の事実が震えるほどに嬉しい。
―ただ、この場所で生きていることが、愛おしい。





(あなたの苦しみも悲しみも理解できずに、断ち切った僕が今幸せである事が、ただただ申し訳ないと思うことも本当だけれど…)





針のように突き刺さる罪悪感は、午後の緩み始めた陽の光に、包まれるようにゆっくりと埋没した。
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